お金にならないお金の話

お金は使うと無くなる、これを公理とする

どうして日本の賃金は上がらないのか

どうして日本の賃金は上がらないのか

これはニュース解説のタイトル。確かに誰もが知りたい疑問である。しかし、上がらない要因を考える前に、賃金とは何かと聞き返したい。どうして賃金がもらえるのか、疑問に感じる人はどれほど居るだろうか。私の場合、この疑問に辿り着くまでに4年を費やした。

日常生活を送るには実に多くの人工物が必要である。水道、電気、ガス、道路、商店、住宅、衣料、食料、すべて誰かの労働の産物である。反対に、生活で利用する非人工物すなわち自然物は空気だけである。景色を眺め、目に入るものを人工物と自然物に分類すると、空は自然、木々は人工、田畑、堤防、海岸、道路、街並みは人工、鳥は自然、人間の皮膚は自然、着衣は人工。このように、空と海と動物以外は人工物であり、人間は人工物に囲まれて生きており、労働の産物の中で生活している。例えると、お菓子の家を作り、お菓子の家の中で生活し、お菓子の家を削り取って生きている。

科学技術が発達し社会が豊かになることで、生活が楽になり労働時間も減少している。近い将来、人は働かなくても生きていけると楽観的に想像する。悲観的には、AIが労働を奪い、人間はすべて管理されると想像する。実際は、社会の豊かさはすべて労働の産物であり、豊かさの維持にも労働が必要である。豊かさは過去の労働の蓄積であり、将来の豊かさには現在の労働が必要である。現在の豊かさに満足し、豊かさの蓄積を止めてしまえば、簡単に社会は衰退する。

このような労働の成果である人工物を蓄積し、蓄積した人工物の一部を利用することで人間は社会を営んでいる。この人間社会の仕組みが経済である。経済では人工物の適切な蓄積と適切な分配が必要であり、それが生産と消費である。経済は生産と消費の2段階であり、両者を適切に調整する必要がある。ここに賃金が登場する。

お菓子の家で考えると、増築が生産であり、削り取ることが消費に相当する。削り取ってばかりではお菓子の家はぼろぼろになってしまう。削り取る以上に増築すれば家は大きくなるし、ちょうどバランスすれば家は同じ大きさを保つことになる。

経済は人工物を増やす生産と人工物を個人の所有物に変換する消費のバランスで成立している。経済を継続させるためには、消費量が生産量を超えないように管理する必要がある。生産量を記録し、記録に従って消費することで、経済は存続できるが、帳簿で管理することは現実的でない。そこで、帳簿の代わりに生産した人工物に値段を付け、同額の賃金を支給し、賃金の範囲内で消費を行うことで、消費が生産を上回ることを回避できる。

様々な人工物を生産するのであるから、値段の付け方に規則が必要である。値段を高くすれば賃金も高くなるのだから、好き勝手に値段を付ければ好き勝手に賃金を上げることができる。それでは人工物を維持することはできず、経済は崩壊する。生産では、既存の人工物と自然物を組み合わせ、新たな人工物を作り出す。すべての人工物には値段が付いているので、生産された人工物の原材料費は計算できる。そこで、生産された人工物の値段は原材料費の2倍と決め、値段から原材料費を差し引いた額を賃金とすることで、新たに作られた分だけを消費する経済が成立する。

最後の部分が分かりにくいと思うが、生産ではビスケットを2倍にして、半分だけを消費すると、ビスケットはいつまでもなくならない、これでお菓子の家はぼろぼろにならないし、経済は継続できる。

賃金はどれだけ原材料を利用したかで決まる。原材料の値段はどれだけ工場などの生産設備を利用したかで決まる。生産設備の利用金額は減価償却費で計算され、これは生産設備が建造された時の費用で決まる。生産設備の建造費は投資額でかるから、結局、賃金は過去の投資額で決まる。すなわち、投資額を増やすと時間差で賃金が増加する。日本の賃金が上がらないのは、投資額が増えないからである。