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魔法の杖

魔法の杖

誰もが魔力を持つこの世界では、訓練や教育によって魔力を高めることができる。しかし、実際に強力な魔法を発現させるには、魔法の杖が必要である。簡単な魔法であれば、魔法の杖の使い方を覚えることで、誰でも訓練なしに魔法を発現できる。魔法の杖を使わずに魔法を利用する人はほとんど居ない。

魔力値100の杖を使いこなすと魔力値100の魔導士として認められる。この魔導士が発現する魔力は、杖の魔力100と魔導士の魔力100の合計で、魔力値200となる。もしこの魔導士が杖なしに魔法を使ったとすると、その魔力値は10にも達しない。一般的な教育を受けた人の魔力値は1であり、どんなに優れた魔導士でも、杖なしでは凡人の10倍の魔力値も発現できない。そして、魔力値100の杖は凡人でも容易に使うことができる。現在、よく使われる杖の魔力値は1万程度である。もはや、魔導士の能力は、杖の使い方の習得で決まる。鍛錬による自身の魔力値上昇は、社会的な意味を持たない。まずは、どのようにしてこれほど高い魔力値が杖に与えられたかを説明したい。

魔力値100の杖を2本用意する。一本を手に持ち、もう一本の杖に魔力増強の魔法をかける。そうすると、魔法の力は杖の100と魔導士の100の合計で200であり、魔力増強された杖の魔力値は元の100にこの200を加えた300となる。魔力値100の杖2本から魔力値300の杖が1本作られる。このように低魔力の杖から高魔力の杖を作成すると、低魔力の杖の合計よりも強力な杖ができる。この作業の繰り返しで杖は強化される。

強力な魔力を必要とする作業では、予め杖を強化したほうが効率的である。但し、強化魔法の技術は開発する必要があり、研究に魔力を使うよりも、低魔力の杖を何本も使う方が安易な場合が多い。例えば大きな橋を作る場合、弱い魔法では何本もの橋脚を川の中に据える必要があるが、強い魔法であれば橋脚のない橋を作ることも可能となる。橋脚の設置場所が確保できる場合は弱い魔法を使い、橋脚の設置が難しい場合は研究により強化魔法を開発してから強い魔法を使用する。

研究開発の成果が広く利用され、魔力値1万程度の杖が主流となっている。もっと強力な杖も存在するが、多くの魔導士の協調が必要な場合が多く、習得も難しい。

次に、魔導士の報酬について説明する。すべての作業に魔導が利用されるが、農作物や家畜の成長自体は自然の力に頼る必要がある。時間を操る魔導が見つかれば、成長を速めることも可能であろうが、そのような魔導理論は想像もできない。このようなことから、魔導士の報酬も食料との関連で話す。

野生の鹿を仕留めるのに魔力値10万を消耗すると、この鹿の価格は10万円となる。この時使用する杖の魔力値は5万で、魔導士の消耗魔力値は5万となる。魔力値5万の杖を買うには5万円が必要であり、魔導士の報酬は10万円であるが、収入としては半分の5万円となる。ここから、魔力値5万の杖は5万円の収入をもたらす価値があることが分かる。農作物も同じで、育てるために消耗した魔力値が報酬となり、報酬の半分が杖の維持費で、残り半分が収入である。

このような関係は杖の扱いを習熟した魔導士の場合であって、未熟な魔導士の生産物は安く売られる。廉価な商品は使い捨てにされ、杖の強化魔法には利用されない。また、特別な外見の杖は高額な値が付くこともあるが、この場合もコレクターアイテムであって強化魔法には利用されない。杖の製作に関しては、品質が重要であり、魔力値と価格の一致が求められる。杖の能力と価格の関係は、杖の製作に使われた魔力値がそのまま杖の商品価格となり、同時に杖を使用した場合の収入と杖の魔力値も一致する。杖に限定すると、魔力量と商品価値と利用価値が一致する。一方で、生産された農作物などの値段は、消耗した魔力値が基準となるものの、人気などに影響され変動する。

現在、勇者の育成は、国家機関による召喚と国宝級の杖の貸与が主流となっている。選抜や公募による選考はほとんどない。これも、国力を反映した強大な魔力値を示す杖が勇者の魔力を決定することに理由がある。勇者に求められる資質は“勇者らしさ”であり、これには召喚の儀式が最も有効である。