お金にならないお金の話

お金は使うと無くなる、これを公理とする

物価と保存則

物価と保存則

物価とは何であろうか。金融市場には、ポジショントークと言う用語がある。自分の立場に有利となる発言を示す。単なる願望の場合もあるが、人の心を動かして自分に有利な行動を引き出すこともある。もし、誰かのポジショントークが自分にも有利な場合は、同じ内容の発信を行う。これが広がると、願望が実現する、但し、現実と乖離する場合は、いずれ自然淘汰される。

経済は利益追求の場であるとの考えがある。企業の評価を利益率や利益額で考える言説が多い。この考えの下では、発言は自ずとポジショントークとなる。真実を語ることが不利益となるならば、他人の言葉に流される道を選ぶ。流されている人の発言は、オウム返しであることが多い。同じフレーズがよく現れる場合、ポジショントークである可能性がある。

難解な現象の説明をする場合、その理解の過程が人により異なる為、説明に違いが現れる。一方、単純な現象であれば、何度も同じ説明をする必要が無い。同じ説明が繰り返し示される場合は、難解だけれどもみんなが言うから分かった振りをしている状態である。これが、ポジショントークである場合、真実とは関係なく、繰り返される説明が生き残る。真実よりも利益が優先される。

物価とは、物の価格である。消費者物価であれば、生活に必要な物の価格であり、生活に必要なお金を示す。同等の生活をする時に、去年よりも今年の方が沢山のお金が必要であれば物価上昇、インフレである。デフレはインフレの反対である。この説明から、消費者物価はフローの指標であることがわかる。必要なお金とはフローである。

経済全体の物価は、経済全体の物の価格である。資本ストックが経済全体の物の合計価格である。物価がストック指標であれば、資本ストック=物価である。このようにストック指標の物価は一義的に決まる。フロー指標の物価では、同等の生活ならば、との但し書き必要となり、立場によって異なる値が示される。貧乏人物価指数、金持ち物価指数、町工場物価指数、大企業物価指数。生活の体感はフローである為、指標はフローが採用されるのだろうか。結果として、物価指数は誰の体感とも会わない値を示し、要望に合わせた多数の指標を生み出す。

インフレ、デフレは利子率と強く相関する現象であり、利子率は銀行が関与する数値である。物価とは銀行の関与する指標の可能性がある。そこで、銀行の無い経済を考えることで、物価の理解を試みる。

銀行の無い経済とは、企業の借金はすべて家計から借りている状態であり、家計がお金を借りる場合は会社からの前借りである。経済全体では、企業の借金と家計の貯蓄が同額となる。企業は借りたお金で設備投資を行うのであるから、貯蓄=投資である。フローとストックに注意すると、貯蓄=投資は、毎年の現象を示しており、フローの関係式である。ストックは、両辺を積算した、貯蓄残高=固定資産残高、即ち、マネーストック=資本ストックである。

銀行の無い経済では、マネーストック=資本ストックであり、これはストック保存則である。企業から見ると、マネーストックは負債、資本ストックは資産、合計すると常にゼロとなる。貨幣は保存則に従い、お金は使うと無くなる。物価=資本ストック、フロー表現であれば、物価は資本を維持する為のコストである。物価も保存則に従う指標である。

少し補足を行う。家計が得る収入は賃金だけであり、企業は賃金と等価の生産を行う。生産物の一部は投資に振り分けられ、投資分の賃金は買う商品が無く自動的に貯蓄となる。全く自由の無い経済に見えるが、そうではない。賃金以上の買い物が必要な場合は、つけで購入する。賃金の一部が貯蓄になることが予測できるので、つけに寛容である。用途が明確な賃金の前払いは、そのまま消費の増加であるから、企業にも有利である。

貯蓄=投資に戻り、フローの関係について考える。貯蓄は賃金と消費の差分であり、実際のお金の動きは、企業から家計へ賃金で流れ、家計から企業へ消費で流れ、貯蓄とは関係なく何度も往復している。毎回の買い物では、商品に対する代金を支払うが、その代金には経済を維持する為の費用が含まれている。購入した商品の原価と設備の維持費が含まれている。直接的には、企業が設備費を払うが、元は消費で家計が払っている。

生産額が一定の時、資本ストックも一定であり、物価も一定である。この状態から生産量が増える場合、始めに設備、即ち資本ストックを増大させる必要がある。そうなると、商品代金は原価、設備維持費、設備増強費の合計となる。同じ商品に対して、設備増強費分高い代金が必要となる。これがフローにおける物価上昇である。続いて少し遅れて、資本ストックの増加に伴い、生産量、原価、賃金も上昇する。継続的に生産量が増加する状態では、物価と賃金が共に増加する。

この時、貯蓄=投資の関係は維持されており、貨幣価値の調整を目的とする利子率は不要である。利子率の必要性は銀行の存在が関係する可能性がある。銀行の無い経済でも、家計同士の貸し借りに対する金利は存在する。物価が上昇する場合は、早く買う方が安く買える、損得を考えると金利は必要である。しかし、金利によって経済が不安定になることは無い、個別取引の損得の話しである。

ここまでの考察は、貨幣が保存則に従うことを公理とするポジショントークである。銀行の無い経済では成立するが、さらに銀行の存在を考える必要がある。

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ポジショントーク