お金にならないお金の話

お金は使うと無くなる、これを公理とする

人的資本

人的資本

経済を付加価値のフローとストックと考えると、収支式をフローダイアグラムとして表現できる。付加価値の流れであるので、人の情報は明示されないが、任意の事例について検討が可能である。トラック輸送では、高速道路の利用に対し、過去の資本形成に対する費用として資本減耗、未来の資本形成に対する費用として賃金がコストとして計上されることを示した。

ここでは、猟師が鹿を仕留めた場合を考える。使う道具は、散弾銃と散弾である。資本減耗の倍の報酬では猟師は絶滅する。社会が猟師に求めるものは、鹿を仕留める技能であり、その能力に対して代金を払う。猟師はその技能が生産設備であることが分かる。猟師を資本ストックと考えると彼が受け取るべき報酬が理解できる。彼が技術の習得に費やした費用が資本形成であり、鹿一頭分の費用が資本減耗になる。後継者の育成費として、資本減耗と同額の賃金が必要である。息子を後継者とするならば、彼の家族が生活し、技術を伝承するのに必要な金額となる。余りにも当たり前の結論であるが、生産の収支式とフローダイアグラムの正当性を示すとも言える。

技能の習得は個人の収入で行う点、企業の資本ストックとは異なる。そこで、このような個人が所有する技能を人的資本として、フローダイアグラムに組み込む。人的資本の管理者は家計であり、人的資本への流入は教育費、流出は職能給である。人的資本の蓄積には貨幣の発行が伴わない為、ストックの増減は貯蓄に反映されない。教育費と職能給の差額が人的資本の蓄積と定義できるが、統計は困難と思われる。しかし、生産額の半分が基本給に対応するので、職能給は半分からの上乗せとなる。人的資本が増加すると労働分配率が上昇することが考えられる。

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図4 人的資本を考慮した経済モデル

図4は人的資本を考慮した経済モデルである。職能給の名称は職種により異なるが、個人の資格や技能に対する費用は、独立した項目で示されることが多い。企業経営においては、このフロー図は一般的なのだろうか。人的資本を含まない経済モデルでは、資源に天然資源と人的資源が含まれている。図4では資源は天然資源のみとなる。見た目は複雑となるが、内容はより整理されている。なお、生産の収支式は人的資本の有無で変化しない、図4も基礎式を満たしている。

お金は使うと無くなる。この公理から、消費ではお金と商品が対消滅して、所有物に成ると解釈している。この解釈では、移動する貨幣と消滅するお金であり、形式としての貨幣、概念としてのお金、この区分が必要である。付加価値フローダイアグラム全体では、資本ストックと貯蓄残高の分離が対生成と対消滅の正当性を示している。

しかし流れだけに着目すると、商品の流れと逆行する貨幣の流れである。商品の製造は過去から未来へ進んでいる、これに逆行する貨幣は未来から過去へ進んでいる、このような解釈が成立する。実際、企業間の伝票による決済は未来からお金を受け取る状態に近い。伝票決済の考察もお金の理解に繋がる可能性がある。