お金にならないお金の話

お金は使うと無くなる、これを公理とする

交換の幻想

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プレゼント交換は互酬

交換の幻想

まだしゃべれない小さな子供と接すると、その子が持っているお菓子をもらう事がある。余っているから分けてくれるのだろうかと考えていると、もうひとつ渡してくる。結局、全部のお菓子を手放してしまう。お腹がいっぱいでいらないのだろうかと考える。お返ししなくてはと考えていると、少し不満そうである。この場合の正解は、もらったお菓子をその子に渡すことである。ありがとうと言って、食べてしまうとコミュニケーションは破綻する。

不要なものを譲渡するのではない、自分のお気に入りを提供する。相手も同じように、お気に入りを提供すると思っている。子供にとって、譲渡に対する見返りは当然なのである。最も欲しい見返りは、自分の渡したものであり、何かと交換したいわけではない。プレゼント交換は言語に先行する人間関係なのだろう。子供は、成長と共に、プレゼントに対する見返りが不確実であることを学び、大切なものは自分の物、所有物として管理する。

家庭内では、所有はあいまいな場合がある。家の中のものは、家族のものであることは確かであるが、個人の所有物であることは明示的に示す必要がある。所有の概念は、個人の確立よりも以前に存在している。冷蔵庫のアイスは子供にとって、強い欲求対象であるが、自由に食べることは出来ない。たいていの場合、母親の許可が必要である。兄弟が存在する場合は、分配の後、自分のものとなる。自我の確立は、譲渡、分配、所有よりもずっと後の発達段階である。自分の持ち物と友達の持ち物の区分は、小学校入学の段階では不完全である。

子供の発達順序は、一対一の譲渡、複数への譲渡である分配、家族などの集団による所有、個人所有である。譲渡、分配、共有、所有の順番である。交換は、事前に個人の所有物である必要がある。共有物を個人の判断で処分することは出来ない。交換は、個人所有物対個人所有物、或は集団対集団で可能な操作である。よって、子供の発達順序から推定される取引の発生順序は、譲渡、分配、交換である。

集団の生活では、必然的に分業が行われる。家族全員が調理に参加する必要は無いし、掃除も分担すればよい。収穫、収入の確保も全員で行う必要は無い。現在の国を単位とする大規模な集団においても、分業である。すべての労働は分業の一部である。この分業は、企業内の製造、経理、営業などの作業分担ではなく、国全体での分業である。米を作る集団、自動車を作る集団、ペットボトルを作る集団、このような区分を行うことで、産業区分の作成は可能である。しかし、ある商品に着目し、その生産に係わる集団を抽出することは実質的に無意味となる。米を作るには、自動車も包装用のプラスチックも燃料も必要である。さらに、生産者の生存を確保する必要もあり、結局、全産業が関連する。

このように社会全体が分業であることは、納得できる、異論の少ない認識であると思う。ここで、この分業の行程を分割し、取引の最小単位を探すと、貨幣と商品の交換を発見できる。さらに、十分に成長した社会人は、自らの所有物を基点として生活しており、所有と交換が直結し、所有と交換の集合が経済と認識する。しかし、子供の成長過程から、譲渡と分配は交換以前に存在する取引形式であり、プレゼント交換即ち互酬も、交換とは異なる取引形式である。分業による生産と商品の販売は、全体としては分配の形式に従う。商品はもともと、消費者に提供することを目的としており、余剰な所有物の交換と考えるのは、無理がある。

取引形式として、交換のほかに分配と互酬が存在することを踏まえたうえで、交換取引を考えると、成立の困難が明確になる。交換取引の困難は、貨幣と商品の交換においても現れる。

商品購入の決断には、満足が必要である。歩ける距離であれば、タクシーは利用しない。より安い商品で満足が得られるならば購入は保留される。基本的には、お値打ちであることが購入の条件である。商品購入過程には、購入側の満足が取引の成立条件であり、販売側は事前に価格を提示している。両者は対等ではなく、交換取引とは異なるように見える。

商品購入が交換取引であるならば、売り手と買い手の双方にお値打ちである必要がある。又は、双方が対等であり、等価交換である必要がある。しかし、買い手には、等価であることを判断する情報は無い。結局、自らの満足で判断する必要があり、交換取引は双方が得をする必要がある。そうなると、取引が成立した時点で、相手は得をしているのであるから、次回の取引では改めて価格交渉する余地があることになる。これは、オークションの取引形式である。

商品販売が分配であり、経済が分配の連鎖、互酬であれば、商品販売は購入者の満足で成立する。販売側は、分配の継続が目的であり、利益は、事業継続と拡大の手段であり、目的では無くなる。企業理念は社会貢献であることが多い、経済が互酬システムならば、整合性が成立する。さらに、オークションが交換、商品販売が互酬と分離することで、経済現象の整理が容易となる。

互酬は、強制力の働くプレゼント交換、分配が恩を与える行為であり、恩の返却が圧力となる状態を想定した。分配の連鎖を互酬とした。