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3Dプリンタは進化するか

3Dプリンタは進化するか

3Dプリンタとは、コンピュータで作成された3次元データを元に断面形状を積層し、立体を造形する機器である。コンピュータ上の立体を現実の物体へと変換する装置とも言えるが、コンピュータ上の立体が現実の物体を模倣したものであれば、現実の物体をコピーする装置とも言える。ちょうど、プリンタとコピー機が一体化した複合機と同じである。3Dプリンタは物体のコピー機と考えることができる。但し、利用できる材料が限られるので、3Dプリンタで造られた物体のコピーしかできない。残念ながら、3Dプリンタは現実の物体をコピーすることは出来ない。それならば、すべての物体が3Dプリンタで造られた世界を構築すれば、3Dプリンタは万能のコピー機となる。

限定された材料で構築され、3Dプリンタが万能コピー機である世界を考える。万能コピー機が適切に動くには、万能コピー機本体と機器を作動させるプログラム、そしてコピー元のデータが必要である。ハード、ソフト、データ、この3点が必要であり、これはコンピュータ上の作画と同じであり、コンピュータ技術の延長線上に万能コピー機の世界は存在する。

万能コピー機の世界で最初に作成する物体は、万能コピー機自身である。ハード、ソフト、データすべてが揃うのは万能コピー機だけである。万能コピー機は複雑な機器であり多数の部品から構成されるが、全てのデータが揃っており、適切な手順でプリントすることで組み上げることができる。自身とは異なるデータを入手すれば、自身以外の物体のコピーも可能であるが、入手方法がなければ、ひたすら自身をコピーすることとなる。

もう皆まで言う必要はないが、この万能コピー機は材料が尽きるまでひたすら自身の複製を繰り返し、それは倍々に増殖する。この複製は、ハード、ソフト、データを一括して行うが、どうしてもエラーが発生する。エラーは偶然の結果であり、ハード、ソフト、データのどこに発生するかは確率的で確定的ではない。もし、エラーによって不具合が生じれば、万能コピー機は壊れて止まる。もし、エラーによって複製速度が向上すれば、オリジナルよりも早く増殖しオリジナルを凌駕する。エラーの度に万能コピー機は多様化し、競争社会となる。競争社会の生存戦略は、頑丈で壊れないかどんどん増えるかの選択となる。あるいは、この組み合わせの最適点の追求である。

優秀なコピー機はデータを忠実にプリントするが、自身をコピーする機能を持たない。自身をコピーして初めて万能と呼べる。万能コピー機を発明し、そのスイッチをオンにすれば、後はどんどん増殖し、多様性を実現する。このような自発的な多様性の発展は進化である。3Dプリンタが進化するためには自身の複製が必要であり、自身の複製は必然的に進化を伴う、と結論付けられる。

もう皆まで述べたが、細胞は有機物を材料とする万能コピー器である。万能コピー器は、ハード、ソフト、データの3要素で成立する。現在、ゲノム解析としてDNA解読が進んでいるのはデータの部分である。ソフトに相当する部分は未解読でジャンクと呼んでいるが、データよりもソフトのほうが重要であることは明らかである。万能コピー器に対して我々はあまりにも無知である。この万能コピー器が繁栄するためには、環境に適合した進化をする必要がある。環境に適合するためには、すでに繁栄している個体を模倣する方法がある。偶然のエラーに期待するよりも、改善には模倣が優れている。我々の細胞もこの模倣機能を持っている可能性がある。もし、模倣機能があるとすれば、細胞間での情報伝達がエキソソームであり、個体間の情報伝達がウイルスである。最後に、万能コピー器が複製を繰り返すのは、元データが自身のデータだけだからである。もし、外部からデータを送り込めば、ちゃんと外部データを使いプリントする。大腸菌では十分な実績があり、21世紀は人間の細胞を3Dプリンタとして利用することになる。私は反対だが、人間の好奇心は底なしである。